
MST PAACS BY MASATO AOKI
por MizoguchiTsubasa
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一点物のVINTAGEだけではない
世界中どこを探しても
fernwehでしか買うことができないものがある
MST PAACS <エムエスティー・パックス>
作家は青木將人
"現代の目まぐるしく合理化された世界では、バッグはいずれ「役に立たない道具」の典型になるだろう。財布、本、鍵はその質量を失い、今やスマートフォンの中に、そしてポケットの中に収まっている。先史時代の道具は、創造性の余地を多く残している。それは、モノ自体が利便性の領域外にあるため、デザインの優先順位に合理性を与える必要がないからだ。そのような問いから生まれるデザインや形とは何か。合理的な思考に基づかない道具のデザインを模索し、探求するための道具としてバッグを使う。"
かいつまんで話そうか
もうこの先、バッグに物なんか入らなくていいんだよ。
もっと、その先にあるデザインの可能性に目を向けていこうぜ。
と彼は言っているわけだ
青木が作っているのはカテゴライズとしてバッグである
しかし、必ずしもバッグである必要はなかったのだと僕は思っている
構造は彼のデザインの中で非常に重要な要素を占めているので
その意味でバッグというプロダクトが明瞭だったのかもしれない
彼が作るバッグは製造工程で3Dモデリングの技術を駆使している
よく聞くワードの"3Dプリンター"というやつ
膨大な時間をかけ、バッグの主要な構造体となるものを出力していく
そして今度はその構造体に対して、青木自らが職人となり
レザーをハンドステッチで縫い合わせていく
デジファブとクラフトの要素がMST PAACSの作品には共存している
バッグ本体を捻ることで開口部が出現するというあまりにも斬新な構造によってデザインされているFUSE
麻などのプリミティブな素材を熱圧縮するチューブやPVCなどのケミカルな素材で包み込んだハンモック構造のGHOSTはメンフィスの倉俣四郎の照明作品を彷彿とさせるようなビジュアルで落とし込まれている
デザインの未来や発展について
時折、考える事がある
デジタル技術はこの先、人類の進化と共に更なる発展を遂げるだろう
100年後にはどんな新しい事が出来るのか
想像すら及ばない程に輝かしい
逆にクラフトの方はどうだろうか
どうあがいても技術は衰退していく
進歩はあり得ない
VINTAGEを見続けていると、よくわかる
ロストテクノロジーは戻らない
デジタルの進歩がクラフトを淘汰していく
極々、自然な現象だ
しかし、完全に人の手が介入しなくなったプロダクトに果たして私達の心は揺さぶられるのだろうか
MST PAACSはその問いに対して明確に一つの共存論を明示してくれていると思う
彼がこのコレクションを初めて発表したのは
実は2020年の事
一部の関係者のみに展示会形式で披露されて
その後どこの店にも並ぶ事はなかった
それ以前に、一般のバイヤーすら呼ばなかった
量産なんてできないのだ
MST PAACSは主要な生産工程のほとんどを青木が1人で行なっている
バッグをたった一つ作るためだけに4ヶ月から半年の時間がかかる
ファッションビジネスとして、破綻している
だから僕は彼をファッションデザイナーとしては捉えていない
ファッションとプロダクトとアートピース
その中で自身がどういったポジションを取るべきか
目まぐるしく駆け回っている
そういったものが、僕は大好きなのだ
彼の作品には、久しぶりに心から胸が高鳴った
幻となってしまったファーストコレクションを復刻させて
何としても陽の目を浴びせたいと思い、無理を言ったことが今に至る
類は友を呼ぶとはよく言ったもので
たくさんの人には理解もされない代わりに
一部の人にはめちゃくちゃ響く
1人のお客様が2個、3個と買ってくれたりするのだ
10万-20万とする様な利用使途不明瞭な物体を
健全で、素晴らしいと思う
今度は僕から青木に新しい提案をしてみた
傘立てを作って欲しい。と
単純に彼が思い描く傘立ての終着点に興味があった
世の中にある傘立てを含むいくつかのプロダクトは
如何に合理主義的、機能主義的な観点でデザインを落とし込むか。
というところにいなければ評価対象になり辛い傾向にある
ナンセンスだと思う
約一年後
その宿題の答えとなったのが、本作FLOWER
本作はMST PAACSのバッグと同様の制作方法を用いる
デジタル上で粘土をこねくり回すように3Dプリンターを駆使したデジファブ技術によって構造体を作り出して
その後はデザイナー自身によるハンドメイド
まるで花瓶の一輪挿しの様に傘を一本だけ差し込む構造で
立方体は底面を含む全面が鏡貼り
如何に無駄を愛せるのかを私たちに問いかけてくる
同時に、バッグよりも生産性を向上させて
プロダクトデザインとしての優位性を掴みながら
ターゲットの幅も広げた
色と形状の組み合わせによって
"一点物"という存在価値を引き続き保証している
正当な進化だ
素晴らしいと思った
これからもMST PAACSとの関係値は続いていくと思う
デザイナーとして、作家として、アーティストとして
この先、どういった着地点へとMST PAACSが進んでいくのか
皆さんには是非、見届けていただきたい
fernweh
溝口